映画『スパイの妻』

スパイの妻』は夫を高橋一生、妻を蒼井優が演じた。
重いテーマの映画だった。

昔は、戦争時の状況の心理描写を他人事のように見ていたが、今の新型コロナウイルスによるパニックと戦争時のパニックに相通じる部分を感じた。
目に見えないウイルスは、人間の身体を直接攻撃するだけでなく、目に見えないウイルスによる情報、憶測によって人間の精神さえもおかしくした。

私は、全世界全員の頭がおかしくなっていると考えている。
夢野久作もこのような言葉を残している。

人類、皆気違い。

夢野久作『ドグラマグラ』

答え合わせは、パンデミック後に色々とわかっているだろう。
色々な情報が拡散され、何が正しく、何が悪いのかわからない状況である。
自分の身はしっかりと自分で守り、自分の考えは常に間違っているかもしれない、という疑念を持って他人に押しつけず、しかし大筋は間違っていないはずだ、という自信を内に織り交ぜて、パンデミックを乗り越えたい。

妻役の蒼井優は、正義よりも幸せを選んだ。
ある意味、狂気には映った。
しかし、妻からしてみたら、それが当たり前なのだから普通なのだろう。

発狂してぶち込まれた精神病院から出してくれるように計らおうとした医師の言葉を、妻は固辞した。
そして医師にこう告げる。

「私は最初から狂ってなどいません。しかし、狂った世間が私を狂っていると言うなら、私は狂っているということでしょう」

明るく生こまい
佐藤嘉洋